先週あたりからタイのネット民の間でちょっとした騒ぎになっている話題があります。
それは、タイではトップクラスに有名なトラベル系Youtuberのミントちゃん(มิ้นท์)がアフガニスタンへと向かったことから始まりました。
※「ミント」と表記していますが、最後の「ท์ (t)」は発音されないので、実際には「ミン」というふうに呼ばれます。
有名人気ユーチューバー、アフガニスタンへ!
「I Roam Alone」という人気YouTubeチャンネルを運営する旅行系インフルエンサー、通称「ミント」こと、モントン・カサーンティクンさん(มิ้นท์-มณฑล กสานติกุล)は、2021年7月26日、「1人でアフガニスタンへ向かっています」とファンへ告知しました。
その中で彼女は、
「現在のアフガニスタンの状況は思わしくなく、アメリカ兵も撤退しはじめており、タリバンは勝利宣言をして急速に侵攻地域を広げています。今までで1番怖い旅行です。でも行くことにしたのは、これはきっと最後のチャンスで、もしタリバンが国を再び占拠したらこの先行けるかどうかわからないからです」
「アフガニスタンへ行きたいもうひとつの理由は、『世界で最も幸薄い人々』の、『女性として生まれることが最も辛い』ような場所だけれど、『ゲストにはとても優しく思いやりのある人たち』でもある国に触れてみたいからなんです。私みたいな女性が行ったらどんなことに出会うのか、彼らがどのように生きているのか、何が起こるのか、自分で見てみたいんです」
というような内容を語ったそうです。
当時、彼女はアメリカに入国してファイザー製のワクチン接種を行い、ニューヨーク界隈での動画を制作し公開していました。
この発表を受けて、ファンはもとより、心配した人々から多くの意見や思いとどまらせようとする声が上がりました。
この戦火の中、本当に行くべきなのかと。
「とても危険だし、何かあった時に救助する人たちも迷惑をかけることになる」
「もし拘束されたりしたら、政府は身代金要求の交渉をしなければならない」
「数日間の旅行でその国の何がわかるの?」
「可哀想な人々を自分のコンテンツのために利用するなんて。彼らは『人間動物園(Human Zoo)』じゃないんだよ」
といった、彼女のアフガニスタン行きに賛同しない・批判的な内容が多く、
中には、
「本当にミントはこんな時期にアフガニスタンに行くの?行ったの?実は仮想旅行じゃないの?」
という、ネット民の声まで上がっていました。
タイ語メモ(仮想〇〇/〇〇ทิพย์)
この「仮想旅行」というのは、
เที่ยวทิพย์ (ティアオ・ティップ)を訳したものですが、「〇〇ทิพย์」(ティップ)というのは最近のネット用語で、「仮想の」とか「架空の」「想像上の」「妄想の」という意味になります。
(例)
เที่ยวทิพย์・・・ティアオ(旅行)+ ティップ = 仮想旅行、架空旅行
แฟนทิพย์・・・フェーン(恋人)+ ティップ = 架空の恋人
ผัวทิพย์・・・プア(夫・雄)+ ティップ = 仮想彼氏、架空の夫
เมียทิพย์・・・ミヤ(妻・雌)+ ティップ = 仮想彼女、架空の妻
กักตัวทิพย์・・・ガックトゥア(隔離)+ ティップ = 仮想隔離
「ทิพย์」の元々の意味は、「天の」「天人の」「天使の」「卓越した」というような意味なので、現実ではない、お空の上の話をしているようなイメージなんですかね。
インターネット用語、若者言葉の部類ですが、おもしろおいですね。
◆ศัพท์โลกโซเชียล (サップ・ローク・ソーシャル)= SNS言葉・インターネットスラング・若者言葉
売名行為!?
その後、7月29日にはミントさんは以下のようなメッセージを投稿しています。
「タリバンが今いる町の空港近くまで侵攻して来ています。現在フライトは全てキャンセルされ、明日もどうなるかわかりません。ミントと一緒にいる女性ガイドはタリバンが接近してきていることを恐れていて、もしやって来たら『自殺したほうがまし』と言っています」
「ミントのことは心配入りません。アフガニスタンの人がよく面倒を見てくれているから」
このような発言の後あたりから、彼女のことを心配しながらも応援するファンの人たちや、真っ向から批判する人たちの間で、さらにこの騒動に対する議論が白熱していきます。
「報道機関が危険な紛争地帯へ取材へ行くとき、ジャーナリストはその国のレンジャーや同盟国の部隊と共に赴くのに」
「ガイドの女性にも危険が及ぶんじゃないの?」(タリバン政権では女性の教育・就業が禁止されている)
「売名行為」
「金の亡者。どれだけ脚光を浴びたいの?」
タイ語メモ(脚光を浴びたい/หิวแสง)
この一連のミントさんの騒動に関するニュースのコメント欄にも出てくる「脚光を浴びたがる」「注目を集めたい」というような意味のタイ語が「หิวแสง」(ヒウ・セーン)です。
これも、最近のネット用語、若者言葉のひとつらしいです。
หิวแสง・・・ヒウ(お腹が空く・渇望する・飢える)+ セーン(光)= 脚光を浴びたい、注目されたい、スポットライトを浴びたい
これは、それぞれの言葉の意味からも、容易に想像ができそうなスラングですね。
さらに炎上(ある外交官からのアドバイス)
また、さらに物議を醸し出す事件が発生します。
彼女のことを心配したある男性が、ミントさんに以下のような善意の質問をします。
(実はこの男性、ナイロビにあるタイ大使館の書記官だということが後で判明)
「・・・アフガニスタンの大使館にコンタクトを取ったって、どういうことですか?アフガニスタンにタイ大使館はないですよ。アフガニスタンにいるタイ人の面倒を見てくれる(アフガニスタンではない)他国にあるタイ大使館?あるいは、国外にあるアフガニスタン大使館(アフガニスタンの在外公館)ということですか?」
※カッコ内はまなお注記
これに対して、ミントさんはこう答えます。
「情報を入手することができる、外国にあるアフガニスタン大使館です。どうしてタイ大使館にコンタクトしなければならないんですか?」
と答えます。
※余談(メディアの悪意?)※
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ちょっと、本筋からは離れるのですが、上記の一文、
「情報を入手することができる、外国にあるアフガニスタン大使館です。どうしてタイ大使館にコンタクトしなければならないんですか?」
は、
MGR ONLINEというサイトの記事(コメントのキャプチャー画面付き)のタイ語を私が訳したものですが、その部分の原文は以下の通りです。
สถานทูตอัฟกานิสถานในต่างประเทศที่เช็กข่าวได้ค่ะ จะติดต่อสถานทูตไทยทำไมคะ
ところが、このおなじ部分のタイ語を、DAILY NEWS ONLINEのある記事の中では、以下のように記載しているのです。
“ติดต่อสถานทูตอัฟกานิสถานในประเทศอื่นสิ ทำไมต้องไปติดต่อทูตไทย”
このタイ語を初め読んだとき、私的にはミントさんがすごく嫌な感じ(きつい言い方)で答えてるように受け取れたんですよね。
強調の「สิ」(スィッ)が付いていたり、語尾につける女性の丁寧語「คะ」(カ)が省かれていたり。
私の主観が入ってしまっていますが、上のタイ語を読んだ時の言葉から受ける私の印象は、以下のような感じでした。
「国外のアフガニスタン大使館にコンタクト取ったに決まってるじゃない。なんでタイ大使館にコンタクトしなきゃならないわけ?」
記事的には、内容を「要約しただけ」と言われるかも知れませんが、引用符が付いていたら、読者は本人がそのままのことを言ったと感じてしまうと思うんです。
なんだか、ミントさんの印象を悪くしたいというような(意識的か無意識かは別にして)この記事を書いた人の悪意のようなものを感じたんです。
別に私はミントさんの今回の行動を支持しているわけでは全くないですが、この記事の書き方はフェアじゃないと感じました。
※万が一、動画や他のコメント欄で、ミントさんが実際に上記DAILYNEWSの記事に書かれたままの発言をしていたとしたらごめんなさい。
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話を戻しましょう。
上記のやりとりに対して、ミントさんのファンの一部からは「ミントは世界中を旅して来てるんだから、そんなことよくわかってるんだよ」と、彼女を擁護するような声もありましたが、大半は「その言い方!」「ミントさんには失望した」などといった、否定的なコメントだったようです。
ちなみに、先の善意の男性(外交官)は、冷静に以下のようなアドバイスを与えています。
「外国を旅行または滞在しているタイ人に対して情報を提供し援助・保護をするのは、在外タイ大使館の役目です。もしミントさんがアフガニスタンで何かトラブルに遭遇したら、パキスタンのイスラマバードにあるタイ大使館に連絡することをお勧めします。そこがアフガニスタンも管轄していますから。在外アフガニスタン公館に連絡してもミントさんを救助することはたぶんできません」
情報は精査済み!?
7月30日。ミントさんは投稿を更新します。
(以下、MGR ONLINE記事からの要約)
アフガニスタン大使館の友人に状況確認したところ、何も心配ない。何も深刻な事態はなく、あと2、3日でフライトも再開する予定とのことでした。
そもそもこの時期にアフガニスタンに来たのもそれほど危険がないからであって、来る前には自分でしっかり調べて、ニュースもチェックして、現地の人やアフガニスタンから帰って来たばかりの人にも尋ねたら、みんなまだ行けるって言うから、来ることを決意したんです。もし来れないなら来ていません。
というような内容のことを投稿します。
また、「ご心配おかけしてごめんなさい。そして皆さん本当にありがとうございます」
と、アフガニスタンのガイドとのツーショット写真を添えて投稿します。
ここで、再び炎上します。
「ガイドの女性の写真をアップするのは、彼女を危険に晒す」
という非難の声が上がります。
と同時に、彼女の身の安全を心配するコメントも多く書かれました。
「タリバン勢力に動きを知られてしまうよ」
その後、一連のアフガニスタンに関する動画コンテンツや投稿は全て消されました。
「無事」報告。そして「18の質問」への回答
彼女の行動の是非はさておき、その後の安否が気になっていましたが、本日2021年8月3日付けでFacebookが更新されていました。
ご本人は無事だとのことです。
とりあえずは、よかったです。
https://www.facebook.com/IRoamAlone
ただ、最初にすごく強気な警告文が書かれていてちょっと驚きました。
まあ、彼女も散々批判や非難(おそらく誹謗中傷も)を受けているでしょうから、その対抗手段であるとは思いますが、
「オンライン・オフライン、公私を問わず、過去のものもこれからも、このページにある静止画、LIVE、動画コンテンツの全部または一部の複製を禁じる。少しでも内容に間違いを生じさせるようなまとめ記事や解釈、分析も禁止(全通信社を含む)。これらには全て法律効果が発生する。また、これらの(違反した)記事内容を使ったりシェアしても同様に法律効果が発生する。Facebook内のコンテンツ全体を直接リンクしてシェアをすることは認める。権利を侵害し憎悪や虚偽を生じるような記述や意見に対しては法的措置を取る」
みたいなことが書いてありました。
これって、常套句?テンプレ?みたいなもんなんですかね?
もしかして、私のこの記事も訴えられちゃったりするんでしょうか。(笑)
(詳しい人、『消した方がいいよ』とかあればアドバイスください)
私は、ミントさんの味方でも敵でもなくて、全てを否定するわけでも肯定するわけでもありません。念のため。
そして、この最新投稿(2021年7月3日)では、ミントさん自ら18の質問についての答えを書かれています。
ここで全文を紹介することや翻訳することは控えますが、質問のタイトルだけざっくり書いておきますので、興味のある方はご本人のページをご覧ください。(全文タイ語でかなり長文)
https://www.facebook.com/IRoamAlone/posts/374781314015367
1. ทำไมถึงลบโพสท์?(なぜ投稿を消した?)
2. เกิดเหตุการณ์อะไรขึ้น?(何が起こった?)
3. กลัวไหมเหตุการณ์เรื่องสนามบิน?(空港の件は怖かった?)
4. มานี่ใครช่วย มีเพื่อนด้วยหรือรบกวนคนอื่น?(支援者は?友人がいた?人に頼った?)
5. เธอไม่เข้าใจความซับซ้อนของพื้นที่?(あの地域の複雑な情勢がわからないの?)
6. ทำไมมาเอง ไม่มากับกองกำลังต่างชาติ?(なぜ自力で?海外レンジャーと行かなかった?)
7. คอนเท้นท์หิวแสง? ทำไมเดินทางต้องอวด?(注目を集めるためのコンテンツ?旅行自慢?)
8. ไปอัฟกานิสถาน เพื่อไป Human Zoo?(アフガニスタン行きは『人間動物園』を見るため?)
9. การเดินทางไปเป็นการใช้ทรัพยากรของอัฟกานิสถาน ทำให้พวกเขาลำบาก?(アフガニスタンの人やモノを利用して、迷惑をかけるのでは?)
10. ถ่ายรูปไกด์ ไกด์อันตราย?(ガイドの写真撮影はガイドが危険では?)
11. ทำไม Live ที่อัฟกานิสถานแล้วดูมีความสุข?(アフガニスタンの撮影でなんで楽しそうにしてるの?)
12. ทำไมไม่ทำคอนเท้นท์ที่ไทย ทั้งๆที่บ้านตัวเองก็แย่พอกัน ทำไมไม่ช่วย ไม่Call Out?(自国だって充分酷い状況なのになんでタイのコンテンツを作らないの?なんでタイを助けないの?声を上げないの?)
13. อีโก้จัด?(エゴが強すぎない?)
14. ทำไมตอบนักการทูตแบบนั้น?(外交官になんであんなふうに答えたの?)
15. เรื่องการดำเนินคดีทางกฏหมาย(告訴しますか?)
16. สิ่งที่น่าผิดหวัง...(失望したこと…)
17. มิ้นท์โลกสวยและไม่แคร์อะไร?(ミントは楽観的で何も気にしないの?)
18. ต่อไปในพื้นที่ของ I Roam Alone(I Roam Alone の今後は?)
Facebook https://www.facebook.com/IRoamAlone より
おわりに
『ある国で報道される海外ニュースの内容や温度感が、現地の人々が現実に体感しているものとは乖離していたりズレていたりすることがある』というのは、実際に自分がタイに住んでいて経験していることではあります。
例えば、今から10年以上前になりますが、赤シャツの暴動、黄色シャツの都心部や空港の占拠などが起こった当時は、日本でも大々的にセンセーショナルな報道がされたこともあって、家族や知り合いから毎日のように心配の声をかけてもらい、安否を問われたものです。
もちろん本当に危機感や緊張を高めた瞬間もいくつかありましたが、ずっとあの緊張感が続いていたかと言えばそうでもなく、バンコクでもあの騒動とは無縁で平和だった地域や、普段とほぼ変わらない生活が続いていた時間もたくさんあり、デモや占拠地の真っ只中でも歌謡ショーや芝居が行われていたり、屋台が立ち並んでちょっとしたお祭り気分だったりする光景も見られました。
ですから、今回、ミントさんが事前に現地の人たちからの情報なども色々調べて、渡航できると判断したり、実際に行ってみてそこまで危険に晒されているわけではないと言ったのも、全くわからなくはないです。(それでも私には今アフガニスタンへ行く勇気は1ミリもないですが)
ただ。
あの赤シャツと黄シャツ(あるいは軍と)の衝突の時に、実際に重傷を負われた方や亡くなった方がいらしゃったのも事実なんです。
日本の報道カメラマンの方も命を落とされました。
一見、大半は穏やかに見えたバンコクでさえ。
タイの人でさえ、あんなことが起こるなんてわからなかったんです。
ましてや外国人の私たちにしたら。。。
でも、とにかく無事でよかったですね。
ではまた。