前回、いや前々回に引き続き、大地の女神メートラニーが描かれた降魔成道図が主仏陀像(本尊)の後ろの壁にあるお寺訪問の記事です。
今回は、アユタヤーにあるワット・チャーン・ヤイ(วัดช้างใหญ่)というお寺をお参りしてきました。
アユタヤの洪水
実はその日、ワット・チャーン・ヤイ寺院へ行く前に、もうひとつのお寺へ向かっていたのです。
そこは、お釈迦さまが棺の中から足をにょきっとお出しになったお姿の珍しい仏像が安置されているお寺で、以前から拝観したいと思っていたのです。
バンコクから80キロ、1時間半かけて向かったのですが・・・
お寺にたどり着いたら、まるでお堀のようにお堂がすっぽりと水に囲まれていました。
アユタヤの洪水についてニュースではちらちら見聞きしていたのですが、このお寺もチャオプラヤー川沿いということもあり、被害を免れなかったようです。
これはどうしようもないので、またの機会に訪れることにして、そのまま引き返しました。
ワット・チャーン・ヤイ
そのお寺を後にしてアユタヤの旧市街方面へと向かうと、途中、いくつか道路が冠水している箇所があったり、ワット・チャーン・ヤイの手前も少し水没しているところがありました。
ワット・チャーン・ヤイの駐車場に車を停めて早速お参りすることにします。
駐車場の前には、立派な象の銅像がありました。
この象こそ、タイの英雄ナレースワン大王が騎乗し、ビルマ軍の制圧とタイ(アユタヤー)の独立に大きく貢献した、チャオプラヤー・プラープホンサーワディー(チャオプラヤー・チャイヤーヌパープ)です。
そうです、象さんですが、「チャオプラヤー」という非常に高い爵位を与えられています。
そこいらの人間よりもずっと位の高いお象さまなんです。
貴族ならぬ貴象。
などと茶化すのは良くないのですが、これは、当時のタイ(シャム)にとって、戦闘用の象、王族用の象がいかに重要だったかということがわかりますね。
もともと、この辺りにはビルマから逃げ延びてきたモン族の人たちが住んでいたそうです。
彼らは象の飼育において優れた知識と能力を持つグループで、アユタヤ軍の戦闘用の象を調教していました。
その中でも、特に有名なのが先ほどのナレースワン大王に献上されたチャオプラヤー・プラープホンサーワディーと、ナレースワン大王の弟、エーカートッサロット王に献上されたチャオプラヤー・プラープトライチャックという名前の象でした。
その後、象の調教に長けたモン族と勇敢かつ有能な象の功績を記念してこの寺院が建てられ、「ワット・チャーンヤイ」(『大きな象の寺』の意味)と名付けられました。
布薩堂拝観
まずは新しい布薩堂(本堂)から拝観しました。
近年建てられたようで、外観も堂内も新しい感じです。
正面にはルアンケーオという光背をいただいた、チンナラート仏っぽい仏陀像が安置されています。
そのご本尊(主仏陀像)の後ろの壁には、両側に仏陀像が描かれています。
メートラニーが登場する降魔成道図ではありません。
メートラニーはどこに描かれているのかというと、ご本尊の対面、つまり入口の扉の上でした。
これは、私が探している配置(メートラニー&降魔成道図が本尊の後ろ)の壁画ではありませんが、先日訪れた世界一美しいメートラニーと言われる、ワット・チョンプーウェーク寺院の旧布薩堂内の壁画配置と似ています。
ルアン・ポー・トーの礼拝堂(旧布薩堂)
私が探し求めている壁画は、新しい布薩堂ではなく、ウィハーン・ルアン・ポー・トーと呼ばれる昔の布薩堂の中にあるのです。
というわけで、旧布薩堂へと移動します。
途中、境内の一部が洪水で水没しており、安置されている仏像も水に浮かんでいるようでした。
こちらがルアン・ポー・トーを祀った礼拝堂(旧布薩堂)です。
アユタヤ時代の建築スタイルを今に残しています。
靴を脱いで、お堂に上がります。
堂内奥の中央には、ルアン・ポー・トーと呼ばれる本尊が安置されており、その手前に8体の小さな仏像が安置されています。
ルアン・ポー・トーは、少し口角が上がっていて、なんだか微笑んでいらっしゃるような素朴で優しいお顔です。
メートラニーと降魔成道図
さて、壁画です。
ルアン・ポー・トーの後ろには・・・
ありました、ありました!
髪の水を絞っているメートラニーさまと、瞑想されるお釈迦さま。
そして瞑想の邪魔をする悪魔たちと水で押し流される悪魔たちの「降魔成道図」が。
三界経(トライプーム)須弥山図
一方、ルアン・ポー・トーの対面、入口の壁には、須弥山を中心とする仏教の宇宙観(チャックラワーン)を表した三界経(トライプーム)の世界が描かれていました。
降魔成道図が主仏陀像の背面の壁に描かれ、三界経(トライプーム)を主仏陀像の対面の壁に描くのは、アユタヤ時代からラッタナコーシン朝初期にかけて建てられた寺院で好まれた配置だと聞いたことがあります。
現存する寺院でこの配置の壁画を持つ寺院は稀だそうです。
今回もまた、そういった貴重な寺院の壁画を拝見することができて嬉しかったです。
以下、私が今までに訪れた、降魔成道図が主仏陀像背面の壁に描かれている寺院です。
もしよかったらあわせてご覧ください。
側面の壁画
窓のある側面の壁には、上部に天人たちが描かれています。
下部に描かれているのは、お釈迦さまの前世に関する物語でしょうか?
大部分が欠損しているのと、私がまだまだ不勉強なのとで、詳細はわかりませんでした。
赤い口の仏像
先ほど、主仏陀(本尊)のルアン・ポー・トーの前に8体の仏像が安置されていると書きましたが、近年この8体の仏像が注目されるニュースがありました。
2011年、タイ正月であるソンクラーン前に僧侶たちが旧布薩堂の掃除をしていた時のこと。
主仏陀像の前に安置されている8体の仏像の埃を払ったところ、笑みを浮かべた唇が赤く塗られているのが発見されました。
長年ルアンポートーのお参りにやってきた人々が8体の仏像に金箔を貼り重ねたため、今まで気付かれなかったのだろうと推測されます。
仏像の口を赤く塗るのは、ビルマあるいはモン族の仏像の特徴で、600年以上前のアユタヤ時代に造られた仏像であると考えられています。
寺院情報
<寺院情報>
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ワット・チャーン・ヤイ
วัดช้างใหญ่
Wat Chang Yai
所在地:บ้านโรงนา หมู่ 1 ตำบล วัดตูม อำเภอ พระนครศรีอยุธยา จังหวัดพระนครศรีอยุธยา 13000
Ban Rongna Moo 1, Wat Toom, Phra Nakhon Si Ayutthaya District, Phra Nakhon Si Ayutthaya 13000
TEL:064-693-6254
時間:08:00-17:00
URL:https://www.facebook.com/changyaitemple/
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以上、アユタヤ島の北西へ約7キロ、かつて偉大な象を育て上げた土地に残る寺院「ワット・チャーン・ヤイ」を訪問した話でした。
私が見たかった、珍しい配置の壁画を拝見できて嬉しかったです。
ではまた。