カエルについてこんなに考えた週末は、かつてありませんでした。
大げさではなく、寝ても覚めてもカエルについてひたすら思いを巡らせていた週末なんて人生で初めてのことでした。
日本語で、いわゆる「カエル(蛙)」と呼ぶものが、タイ語ではいろんな呼び方があるのです。
「いやいや、カエルはタイ語でゴップ(กบ)でしょ?」
と思われる方もいらっしゃると思いますが、実は、日本人がカエルだとひとまとめにしている生き物が、タイ語ではもっと細かく分類されていて、それぞれは別ものと考えられているんです。
私たちが想像する以上に明確に。
アマガエルはゴップじゃない!?
今の時期、日本でよく見かけるアマガエルだって、タイ人の認識ではゴップ(กบ)じゃないし、ガマの油とかで知られるヒキガエル(ガマガエル)だって、ゴップとは呼ばないんです。
ご存知でしたか?
私は、最初知りませんでした。
昔、タイの地方のリゾートホテルの茂みからヒキガエルが飛び出してきて、卒倒しそうになったことがあったんです。
ケラケラ笑うタイ友に、
「マイ チョープ ゴップ!(カエル嫌い!)」と言いながら逃げたら、
「あれは、ゴップ(กบ)じゃなくて、カーンコック(คางคก)だよ」とタイ友。
うーん・・・ていうか、
「もう、ゴップ、いなくなった?」と確認する私。
すると、
「ゴップじゃない、あれはカーンコックだって!」
と再度ダメ出し。
そこ、今、どーでもいいんだけどっ!
という言葉を飲みこみ、間違いの指摘はありがたく受け入れなきゃと思いつつ、
でもやっぱり、今はそれよりあのカエルを視界から消してほしいと願った思い出・・・。
のおかげで、ヒキガエルはゴップでないことはしっかり頭に入ったわけなんですが。
で、先週。
梅雨の風物詩、アマガエルの写真をインスタグラムに投稿されている方がいて、
「ゴップ、かわいい~」(←カエル嫌いのくせに、アマガエルはかわいいと思える)
とつぶやいたら、
「これ、ゴップ(กบ)じゃないよ。パート(ปาด)だよ」
という指摘を、またまた受けてしまったんです。
タイ人、どんだけカエルを細かく言い分けてるんだ?
と思ったら、なんだか興味が出てきてしまい、いろいろ調べるうちに泥沼にはまってしまったんです。
タイ語でカエルの呼び方あれこれ
まず、タイ語にはカエルに関するどんな呼び方があるのかをざっくり調べてみました。
地方によって微妙に呼び方が違ったり、もっと分類が細かかったりすることがあるかも知れませんが、一般的に使われている呼び名を挙げてみました。
- ゴップ【กบ】[kòp]
田んぼや沼など水のある場所にいるカエル。大きさはさまざま。日本でいうところの食用ガエルやトノサマガエルのようなカエル。 - キアット【เขียด】[khìat]
「ゴップ」とよく似ているが、「ゴップ」より小柄なカエル。タイ人でも、明確な区別は難しく、「ゴップ」と認識する人も多いよう。また、下記の「パート」の一部を「キアット・タパート」と呼ぶこともあるので、どちらかというと大きさによる区別な印象。 - パート【ปาด】[pàat] or タパート【ตะปาด】[tà pàat]
小柄で皮膚が滑らかで、指の吸盤で木の葉や壁に張り付いているイメージ。日本でいうところのアオガエルやアマガエルのようなカエル。 - ウンアーン【อึ่งอ่าง】[ʉ̀ŋ àaŋ]
どちらかというと平たい胴体で、威嚇する時には体を膨らませる。日本ではあまり見かけない。 - カーンコック【คางคก】[khaaŋ khók]
皮膚に突起(イボ)がある、いわゆるヒキガエル。
カエルを生物学的に分類してみる
タイ語のサイトでざっくりとカエルの呼び方とその特徴について調べてはみたものの、今ひとつ、それらの違いがまだよくわからなかったので、生物学的に分けてみることにしました。
そうすることで、カエルの特徴やグループが少しでも見えてくるかなと思ったからなんです。
分類学
分類学という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、簡単に言うと、生物のグループ分けの学問です。
生物を様々な特徴に基づいて分類し、整理して体系的にまとめる生物学のひとつで、「界」「門」「綱」「目」「科」「属」「種」という風に、大きな階級からどんどん細分化した階級へ分けて行きます。
- 【界】動物界
- 【門】脊椎動物門
- 【綱】哺乳綱
- 【目】霊長目
- 【科】ヒト科
- 【属】ヒト属
- 【種】ヒト
みたいな感じですね。
カエルの分類をまとめてみた
いくつかのカエルについて、生物学上の分類に従い、表にまとめてみました。
なんて、難しそうに書いてますが、実は、ほとんどウィキペディアに載っている分類情報をメモして表にしてみただけなんです。
※あくまで代表的な一例です。
もっと細かい分類や例外もあるかも知れません。
日本人とタイ人とで、カエル認識の階級が違っていた
注目したいのは、階級(階層)の「目(もく)」と「科(か)」です。
※上の画像の表は小さすぎてよく見えないので、下に同じ内容の表を載せておきます。
※2019年7月29日ゴップナーの表の一部を修正しました(とりあえず下表のみ)
ウシガエル |
中国食用ガエル (田鶏/ゴップナー) |
ヌマガエル | アオガエル | アマガエル | アジアジムグリガエル | ヒキガエル | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
界 | 動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
門 | 脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
亜門 | 脊椎動物亜門 Vertebrata |
脊椎動物亜門 Vertebrata |
脊椎動物亜門 Vertebrata |
脊椎動物亜門 Vertebrata |
脊椎動物亜門 Vertebrata |
脊椎動物亜門 Vertebrata |
脊椎動物亜門 Vertebrata |
綱 | 両生綱 Amphibia |
両生綱 Amphibia |
両生綱 Amphibia |
両生綱 Amphibia |
両生綱 Amphibia |
両生綱 Amphibia |
両生綱 Amphibia |
目 | 無尾目(カエル目) Anura |
無尾目(カエル目) Anura |
無尾目(カエル目) Anura |
無尾目(カエル目) Anura |
無尾目(カエル目) Anura |
無尾目(カエル目) Anura |
無尾目(カエル目) Anura |
亜目 | カエル亜目 Neobatrachia |
カエル亜目 Neobatrachia |
カエル亜目 Neobatrachia |
カエル亜目 Neobatrachia |
カエル亜目 Neobatrachia |
カエル亜目 Neobatrachia |
カエル亜目 Neobatrachia |
科 | アカガエル科 Ranidae วงค์กบนา |
アカガエル科 Ranidae วงค์กบนา |
ヌマガエル科 Dicroglossidae วงศ์กบลิ้นส้อม |
アオガエル科 Rhacophoridae วงศ์ปาดโลกเก่า |
アマガエル科 - |
ヒメアマガエル科 Microhylidae วงศ์อึ่งอ่าง |
ヒキガエル科 Bufonidae วงศ์คางคก |
属 | アメリカアカガエル属 Lithobates |
Hoplobatrachus | ジムグリガエル属 Kaloula |
||||
種 | ウシガエル L. catesbeiana กบอเมริกันบูลฟร็อก |
H. rugulosus กบนา |
アジアジムグリガエル K. pulchra อึ่งอ่างบ้าน |
||||
タイ語の呼び方 | ゴップ กบ [kòp] |
ゴップ กบ [kòp] |
ゴップ กบ [kòp] |
パート/タパート ปาด/ตะปาด [pàat] [tà pàat] |
パート/タパート ปาด/ตะปาด [pàat] [tà pàat] |
ウンアーン อึ่งอ่าง [ʉ̀ŋ àaŋ] |
カーンコック คางคก [khaaŋ khók] |
日本人は、どうやら「目」の階級である「無尾目(カエル目)Anura」のあたりの生き物を全てまとめて同じ「カエル」と認識しているようです。
その下の階級のものは、みんなカエル族の一員で、個々に「アオガエル」とか「ヒキガエル」といった、カエルという名を冠した呼び名で分けているイメージです。
一方、タイ人は、「目」の階級「無尾目」では同じものと認識しておらず、もっと細分化した階級である「科」に於いて共通あるいは類似したものたちを、同じグループのものとして認識しているようなんです。
つまり、
- 「アカガエル科/Ranidae/วงค์กบนา」や「ヌマガエル科/Dicroglossidae/วงศ์กบลิ้นส้อม」などに属するものたちは「ゴップ(กบ)」
- 「アオガエル科/Rhacophoridae/วงศ์ปาดโลกเก่า」や「アマガエル科/Hylidae」に属するものたちは「パート(ปาด)」あるいは「タパート(ตะปาด)」
-
「ヒメアマガエル科/Microhylidae/วงศ์อึ่งอ่าง」に属するものたちは「ウンアーン(อึ่งอ่าง)」
Microhylidae - Wikipedia - 「ヒキガエル科/Bufonidae/วงศ์คางคก」に属するものたちを「カーンコック(คางคก)」
と呼んで区別しているのです。
だから、日本人の「カエル」=タイ人の「ゴップ」ではないんですね。
ちなみに、「アカガエル科」と「ヌマガエル科」は生物学的にも非常に似ているんだそうです。
また、日本では雨蛙としてお馴染みの「アマガエル科」のカエルは、タイにはほとんど生息していないのですが、外観の特徴が「アオガエル科」のカエルと似ているので、おそらくタイ人は「パート(タパート)」と認識すると思われます。
※ちなみに、英語では、ヒキガエル類のことを「frog」ではなく、「toad」と分けて考えています。
認識の違い・言葉の違い
ここまで読んでいただいた方の中には、
「まあ、違いがあるのはわからんでもないけど、ぶっちゃけ、どれもカエルじゃない?
みんな同じような見た目だし」
と思われた方もいらっしゃるかと思います。
正直、私もそう思っていました。
でも、この週末、ずっとカエルのことを考えているうちに、ふと思ったんです。
私たちがこれらのカエルのことを同じようなもの、どれも似たようなものと感じているのは、もしかしたら、名前が「カエル」だからなのかもって。
物心ついた時から、彼らのことを「カエルだよ」と教えられて「~カエル」と呼んできたから、当然のようにどれも同じようなものだと思い込んでるだけじゃないかって思ったわけです。
何も以って、似ているとか似ていないとか説明するのは難しいし、主観によっても大きく左右されると思うんですけど、言葉というか名前の影響力も大きいと思うんです。
タコとイカ
日本人が別物だと思っている「タコ」と「イカ」ですが、タイ語では「(プラー)ムック(ปลา)หมึก)」と、ひとまとめにされてしまいます。
タコもイカも、タイ人にとっては、同じようなものなんです。
もちろん、もっと正確に尋ねれば、
- タコ(Octopus)は「ムック・サーイ(หมึกสาย)」または「ムック・ヤック(หมึกยักษ์)」
- 一般的ないわゆるイカ(Squid)のことは「ムック・クルアイ(หมึกกล้วย)」とか単に「ムック(หมึก)」
- コウイカ(Cuttlefish)のことを「ムック・クラドーン(หมึกกระดอง)」
という名前で呼んだりもするんですが、
しょせん、タイ人にとっては、どれも「(プラー)ムック」なんですよね。
分類学的に見れば、おそらく「亜網」の階級、「鞘形亜綱/Coleoidea」あたりでひとまとめにしているようです。
(日本人は、「上目」あたりでタコとイカを分けているようです)
※ちなみに、英語ではコウイカ目(モンゴウイカなど)のことは、「squid」ではなく「cuttlefish」と分けて呼びますね。
タコ | イカ | コウイカ | |
---|---|---|---|
界 | 動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
門 | 軟体動物門 Mollusca |
軟体動物門 Mollusca |
軟体動物門 Mollusca |
綱 | 頭足綱 Cephalopoda |
頭足綱 Cephalopoda |
頭足綱 Cephalopoda |
亜綱 | 鞘形亜綱 Coleoidea หมึก |
鞘形亜綱 Coleoidea หมึก |
鞘形亜綱 Coleoidea หมึก |
上目 | 八腕形上目 Octopodiformes |
十腕形上目 Decapodiformes |
十腕形上目 Decapodiformes |
目 | タコ目(八腕目) Octopoda หมึกสาย |
コウイカ目 Sepiida หมึกกระดอง |
|
科 | |||
属 | |||
種 | |||
タイ語の呼び方 |
ムック・サーイ 一般的には(プラー)ムック |
(プラー)ムック
|
ムック・クラドーン 一般的には(プラー)ムック |
タイ人が、タコもイカも「(プラー)ムック」とひとまとめにしてしまうのは、日本人にとって「アマガエル」も「トノサマガエル」も「ヒキガエル」もみんな「カエル」なのと似たようなものです。
日本人的には、
「タコとイカは違うじゃん!」なわけですが、
タイ人にしてみたら、カエルに対して、
「指に吸盤があって、木の葉や壁をよじ登れる『パート』と、木に登るどころか、水辺から離れられない『ゴップ』、そしてあんなにイボイボのある『カーンコック』が、どうやったら同じに見えるんだろう???」
と、不思議に感じるのかも知れません。
猫とライオン、人とチンパンジー
極端なことを言えば、ライオンやトラのことを猫と呼ぶ人はまずいないと思いますが、いずれも実は同じ「ネコ科」なわけです。
また、人間で言えば、ゴリラもオランウータンもチンパンジーもヒトもみんな「霊長目ヒト科」なんです。
でも、そこ、一緒にされたらびっくりしちゃいますよね?(笑)
きっとそういうことなんです。
ネコ | ライオン | トラ | チーター | |
---|---|---|---|---|
界 | 動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
門 | 脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
綱 | 哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
目 | 食肉目 Carnivora |
食肉目 Carnivora |
食肉目 Carnivora |
食肉目 Carnivora |
科 | ネコ科 Felidae |
ネコ科 Felidae |
ネコ科 Felidae |
ネコ科 Felidae |
属 | ネコ属 Felis |
ヒョウ属 Panthera |
ヒョウ属 Panthera |
チーター属 Acinonyx Brookes |
種 | ヨーロッパヤマネコ F. silvestris または F. catus |
ライオン P. leo |
トラ P. tigris |
チーター A. jubatus |
亜種 | イエネコ F. s. catus |
|||
タイ語の呼び方 | メーオ แมว [mɛɛw] |
シントー สิงโต [sǐŋtoo] |
スア เสือ [sʉ̌a] |
スア・チーター เสือชีตาห์ [sʉ̌a chiitaa] |
ヒト | チンパンジー | ゴリラ | オランウータン | ニホンザル | |
---|---|---|---|---|---|
界 | 動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
動物界 Animalia |
門 | 脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
脊索動物門 Chordata |
綱 | 哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
哺乳綱 Mammalia |
目 | 霊長目 Primate |
霊長目 Primate |
霊長目 Primate |
霊長目 Primate |
霊長目 Primate |
科 | ヒト科 Hominidae |
ヒト科 Hominidae |
ヒト科 Hominidae |
ヒト科 Hominidae |
オナガザル科 Cercopithecidae |
属 | ヒト属 Homo |
チンパンジー属 Pan |
ゴリラ属 Gorilla |
オランウータン属 Pongo |
マカク属 Macaca |
種 | ヒト H. sapiens |
チンパンジー P. troglodytes |
ニホンザル M. fuscata |
||
タイ語の呼び方 | マヌット มนุษย์ [manút] |
チンペーンシー ชิมแปนซี [chimpɛɛnsii] |
ゴーリンラー กอริลลา [kɔɔrinlaa] |
ウランウタン อุรังอุตัง [uraŋ utaŋ] |
リンカンイープン ลิงกังญี่ปุ่น [liŋ kaŋ yîipùn] |
生物によって、上の方の階級で大雑把にまとめられているものもあれば、下の細かい階級のあたりで呼び分けられているものもあります。
もちろん生物学的な階級とは異なる(はっきりしない)呼び分けをしているものもありますが、ある程度、その民族やグループがどのくらいそれらの生物に関わってきたのか、関心を持ってきたのか、ってことのバロメーターになると思います。
また、もともとその国や地域にいなかった生物については、外国や外来語での区別の影響を受けるってこともあるでしょうね。
おわりに
国によって、民族によって、地域によって、動物や植物の呼び方やまとめ方が違って面白いです。
その集団の生物に対する関わり具合とか重要度とか(興味の度合い?)に影響されるんでしょうね。
今回は、カエルの呼び方をメインに、生物学的な分類にあてはめて考えてみました。
もちろん、昔のタイ人が、分類学上の分類方法に基づいてカエルの呼び方を決めたわけではないだろうし、分類学的に考察することが適切かどうかはさておき、「ああ、このあたりの階級の特徴で見分けて(言い分けて)いるんだなあ」と想像することができて楽しかったです。
昔、私がヒキガエルにビビっているのをよそに、何度も言い間違いを指摘してくれたタイ友。
もし、タイ人が「タコ」を見て「イカ!」と言ったら、日本人である私は「イカじゃないよ、タコだよ」と言いたくなるのと同じレベルで、「カーンコック(ヒキガエル)」のことを「ゴップ」と言った私に対して、タイ人として注意せずにはいられなかったんだな・・・
ということが理解できました。
本当に誰得かわからない(笑)長文かつ駄文を、最後まで読んでいただいてありがとうございました。
(なんだか没頭した割にはうまくまとめられませんでした(^^; )
ではまた。