タイ北部地方の入口にピチットという県があります。
外国人観光客はもとより、タイ人の間でも若干影の薄い県であることは否めないのですが、実はここ、タイ人なら誰でも知っている昔ばなし、ワニ退治物語の舞台でもあるんです。
そんなわけで、とりあえずワニを前面に押し出してくる感のあるピチット県に行ってきました。
昔話「グライトーン」
日本の民話や昔話で、勧善懲悪の退治モノと言えば、先ず思い浮かぶのは鬼退治。
特に有名なのは「桃太郎」とか「一寸法師」あたりでしょうか。
(今だと「鬼滅の刃」とか?笑)
一方、タイでも勇者が悪者を退治する有名な昔話があるんです。
ま、鬼ではなくてワニ退治なんですけど。
それが「グライトーン」(ไกรทอง / Krai Thong)です。
※クライトーンと表記されることもあります。
今の口語タイ語ではR(やL)の発音が脱落するすることが多いので、一般的には「ガイトーン」のように聞こえることがほとんどです。
それはさておき。
このグライトーンのワニ退治のあらすじをざっくり紹介しておきます。
『グライトーン』
昔々、ピチットにワニの王国がありました。
水中の洞窟では、霊験あらたかな水晶玉の神通力により、ワニ達は人の姿となって暮らし、生き物を食べなくても空腹を覚えることはありませんでした。
年老いたワニの賢王タオランパイは、戒律を守り殺生をせず、平和にワニの国を治めていましたが、息子は乱暴者で好戦的でした。他のワニ達との争いが絶えず、喧嘩の末に死んでしまいます。
跡を継いだ孫のチャーラワンも同じく乱暴者で、あまり周りの言うことを聞かず、戒律を破っては動物や人を食べて過ごしていました。
ある日、チャーラワンは川のほとりでピチットの領主の娘2人が水遊びをしているのを見かけます。
タパオケーオとタパオトーンという名の姉妹はとても美しく、一目惚れしたチャーラワンは襲いかかり、妹のタパオトーンを水中の洞窟まで連れ去ってしまいます。
そして、タパオトーンを3人目の妻としました。
元々のワニの妻2人にしたら当然面白くなく、3人の間では争いが絶えなかったようです。
娘をさらわれたと知ったピチットの領主は怒り悲しみ、チャーラワンを退治した者には褒賞を与えるとおふれを出します。
何人もの猛者が挑みましたが、みんな失敗に終わりました。
そこで、とうとう領主が「退治に成功した者には全財産の半分と娘を妻として与える」と宣言すると、その噂はたちまち全国に広まりました。
そこに現れたのが、物語のヒーロー、グライトーンです。
グライトーンはノンタブリー出身の青年で、若い頃から修行を積んで呪術を身につけていました。
魔法の槍とロウソクを師匠から授かって、チャーラワン成敗に挑みます。
そんな頃、チャーラワンは自分が殺される悪夢を見ます。
恐れ慄いたチャーラワンが祖父タオランパイに相談したところ、事態を悟ったタオランパイは「死にたくなければ決して洞窟から出るな」と忠告します。
しかしグライトーンの呪文と挑発に我慢できなくなったチャーラワンは、とうとう洞窟から這い出してグライトーンを迎え撃ちます。
そして、魔法の槍で突かれて命からがら洞窟に逃げ帰って行くのです。
その後、魔法のロウソクで水を吹き飛ばして洞窟に入ってきたグライトーンと再び死闘を繰り広げた末、ついに退治されてしまいました。
死んだと思っていたタパイトーンが無事に戻ったことを知ったピチットの領主は非常に喜び、約束通り財産と娘2人を妻としてグライトーンに与えましたとさ。めでたしめでたし。
と、ここまでが、子供向けに語られるグライトーンのお話。
でも、本当はその続きがあるのです。
ワニの洞窟で見かけたチャーラワンの妻ウィマーラー(ワニです)の美しさが忘れられなかったグライトーンは、2人の妻に嘘をついて再び洞窟へ忍び込んでウィマーラーといい仲になり、地上へと連れ帰ってこっそり囲っていたところを2人の妻に見つかって大騒動。
その後、正妻2人に虐められたウィマーラーは失意の中洞窟へ戻り、それをグライトーンがなだめに向かって…
という、なんのメロドラマ?
っていうか、何?このデジャブ?
みたいな展開がありまして…。(笑)
私的にはすごくウケるんですけど、これ、ラーマ2世が編纂した由緒正しいグライトーンのお話なんですよ。
今も昔も、ちっとも変わっちゃいないんだなと感心しきりです。
(でも源氏物語なんかにも似たようなところはあるし、タイだけを笑うのはよくないですね)
って、そんな話はさておき。
ピチット旅行の話に続きます。
チャーラワンの洞窟はいずこ?
2021年11月。
ロークラトン祭り(灯籠流し)を見ようと、スコータイへ向かう途中で、ピチット県へ立ち寄ることにしました。
ピチット県と聞いてあまりピンとこない方も多いと思いますが、ナコンサワン県とピサヌローク県の間に位置する県です。
いつも通過するだけだったので、今回はとりあえず観光的なことをしようと思いました。
昔からピチットを通過するとき、幹線道路沿いにワニのモニュメントがたくさんあるなとは思っていたんです。
ワット・タム・チャーラワン(チャーラワン洞窟寺)
そんなにワニを推すなら、あの有名なワニ「チャーラワン」にまつわる場所へ行ってみよう!
ということで調べてみたら、チャーラワン洞窟(ถ้ำชาละวัน タム・チャーラワン)というのがあるではないですか。
伝説のワニ王国の洞窟なんて、ワクワクしますよね。
Googleマップで検索したら、ワット・タム・チャーラワン(วัดถ้ำชาละวัน)というお寺がヒットしたので、向かってみました。
ワット・タム・チャーラワン(チャーラワン洞窟寺)に到着です。
お坊さんが1人境内の掃き掃除をなさっているだけで、他には誰もいません。
すごく静かなお寺でした。
本堂でまずお参りをしました。
比較的新しく建てられてようです。
本堂の結界石であるバイ・セーマーの台座は、なぜかタイヤでした。
本堂脇には、チャーラワンを祀った像がありました。
ワニが座禅を組んでいる姿は、なんとも言えない違和感を覚えました。
さて。
チャーラワン洞窟はどこにあるのかと境内を歩いてみましたが、それらしき場所が見当たりません。
強いて言えば、この穴がそうかも・・・
…みたいなのがありましたが、いやたぶん違う。
ここにきて、ようやく何か勘違いしているかも知れないと思い始め、再度情報を検索したら、案の定、チャーラワン洞窟は別の場所でした。
えーーー
チャーラワン洞窟寺っていう名前にまんまと惑わされましたよ。
チャーラワン洞窟
チャーラワン洞窟(タム・チャーラワン)は、ピチットのムアンガオ公園(ウタヤーン・ムアンガオ)という、いわゆる遺跡公園の中にあります。
ワット・マハータート寺院遺跡の片隅にあるのです。
『そうだよなぁ、あの有名なワニの洞窟が、さっきのお寺の洞穴みたいな小ささ(ごめんなさい)なわけないじゃん!』
と自分にツッコミを入れながら、案内板の裏手にある本物のワニ洞窟へ向かいます。
どうやら土手の下に洞窟の入り口があるようです。
チャーラワンと思われるワニと槍を持った男2人の姿が上から見えます。
小石で滑りそうなので足元に気をつけて降りていくと、
ギョッっ!!!!
ちょっとびびりました。
ここに、リアルなちびワニを置いておく必要あります?(苦笑)
ワニの後ろ側から洞窟に向かって歩いて行きます。
それにしても、誰なんだろうこの2人。
まさか、英雄グライトーンなの?
(にしては、精悍さが・・・)
いよいよ洞窟に…。
え!
え!!
ブン・シーファイ公園
次に向かったのは、ブン・シーファイ(บึงสีไฟ)という大きな池の一角にある公園です。
ここには、チャーラワンの像があるからなんです。
この日はちょうどロイクラトンの日だったので、公園の前もお祭り本番前の飾り付けが施されていました。
入り口を入ってすぐ見えてきました。
巨大なチャーラワンが口をガバッと開けている姿!
いやー、やっぱりこれくらいのインパクトが欲しかったですね〜!
なかなか映えるじゃないですか。笑
水上に浮かぶ東屋(あずまや)風の建物に向かう橋の横にも、人間の姿になったチャーラワンの像があるのですが、なかなかイケメンでした。
(逆光でうまく写真が撮れなかったのが残念です)
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以上、ピチット県で伝説のワニ「チャーラワン」を訪ねた話でした。
この後、ピチット市内でランチを食べて、めちゃくちゃ可愛い駅を訪問するのですが、続きは次回に。
ではまた。