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バンコク生活の中で気づいたことや感じたことを書き連ねます。タイの生活情報やタイ語のあれこれ、タイ国内旅行、近隣諸国訪問なども織り交ぜながら。

ナコーンシータマラートで出会った「虚無」 〜芸術の奥深さ〜

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数回にわたって書いている年末のナコーンシータマラート旅行記ですが、

芸術の奥深さと難解さは常に隣り合わせである

ということをしみじみ考えさせられた旅行でもありました。

今回は、そんな衝撃の出会いも交えてお伝えしたいと思います。


これまでの旅行記はこちらをご覧ください。

www.manao.life

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ナコーンシータマラート国立博物館

カノムチーンのランチを食べた後、再びバックパックを背負ってバイクに乗り、国立博物館へ向かいました。

 

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ナコーンシータマラート国立博物館は、ワット・プラ・マハータート寺院から1キロ少し南へ行った場所にあります。

なかなか立派な外観です。

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バイクを駐車して入館し、背負った荷物を受付で預かってもらいました。

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最初の部屋には、先史時代に発掘された土器であるとか武器、工具、装飾品といったものが展示されていました。

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続いて、ヒンドゥー教文化に関する展示室では、シヴァ神の象徴とされるリンガや、踊るシヴァ神、ヴィシュヌ神、女神ウマー他、ヒンドゥー教の神々の像などが展示されています。
なかなかスタイリッシュで鑑賞しやすい展示方法だったのが印象的でした。
(特に撮影禁止というわけではなかったのですが、なぜか1枚も写真を撮っていませんでした)



2階の仏教コーナーでは、さまざまなスタイルの仏像がメインで展示されているのですが、ここで目を惹かれたのは、やはり、正面にドーンと飾られている三角の木彫でした。

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これは、寺院の切妻(ティンパヌム)部分を装飾する木彫刻で、市内にあるワット・サッリアン寺院の旧本堂のものを収容したとのこと。
時代的にはトンブリー王朝の頃に作られたもののようです。

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『踊るシヴァ神像』をモチーフにして、仏教風にアレンジされたものだと推測されています。


陶板の仏像などもたくさん展示されていました。

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地域の文化紹介コーナーでは、蝋人形による村の様子(冠婚葬祭など)の紹介や、南部の伝統舞踊の代表格であるマノラー(ノラ舞踊)の紹介などもありました。

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また、「ナンタルン」と呼ばれる影絵芝居についてのコーナーもありました。

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博物館の芸術鑑賞も終盤に差し掛かった頃。
ふと目に飛び込んで来た作品に、思わず言葉を失ってしまいました。



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なかなかの衝撃です。

そしてこの表情。


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虚無』(友人命名)


いやいやいや、これ、なんなんですか?

と思って、説明書きを読むと、どうやらココナツの実をこそぎ落とす道具のよう。

削り鉄(ココナッツ削り)
1977年にソンクラー県で開催された「南部の物産と文化展」のコンテストで1位を獲得した作品。作家のアム・シーサンプット氏は、1989年にナコーンシータマラート県から文化功労者として表彰されています。


みたいなことらしいです。

後から調べたら、このような道具のことを「グラターイ・クート・マプラーオ(กระต่ายขูดมะพร้าว)」と言うそうです。
ココナッツ削りウサギ」というような意味ですね。

ギザギザの付いた丸い鉄の棒をウサギの歯に例えた道具で、そこに割ったココナッツの殻を当てて動かし、白い果肉を削ぎ落とすのです。
(展示作品は保護のために鉄棒の先端をアクリル板で覆ってあります)


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(画像は、https://museum.socanth.tu.ac.th/より)



ウサギだけでなくいろんな形状のものがあり、それらを総称して「グラターイ・クート・マプラーオ」と呼ぶようです。


なんですけど、

なぜに子供?
しかも、なぜにお尻に突き刺されている?
虐待?
闇?
民話?
伝承?
何かの社会風刺?




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ちょっと深過ぎて、私にはわかりませんでした。

ただ、よくも悪しくも、この印象だけは強烈に私の記憶に残ったのでした。
博物館で見た他の全ての作品の記憶を上書きしてしまうような勢いで。



 

自分は俗衆に理解された時、芸術は使命を果たし、同時に価値を失ふものと思つてゐる。

武者小路実篤 「断片」

 




※あくまで芸術作品ということへのリスペクトから特にモザイクなどは入れていませんが、もし問題あるようなら画像の削除や一部修正を行うかもしれません。


<施設情報>
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ナコーンシータマラート国立博物館
พิพิธภัณฑสถานแห่งชาติ นครศรีธรรมราช
Nakhon Si Thammarat National Museum
所在地:ถนนราชดำเนิน, ตำบลในเมือง อำเภอเมือง จังหวัดนครศรีธรรมราช 80000
    Rachadamnoen Rd., Mueang Nakhon Si Thammarat District, Nakhon Si Thammarat 80000
TEL:075-341-075
時間:09:00-16:00
休館日:月曜日、火曜日、祝祭日
入館料:タイ人30THB、外国人150THB
URL:http://www.virtualmuseum.finearts.go.th/nakhonsithammarat/index.php/en/
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影絵芝居博物館(スチャート・サップシン博物館)

国立博物館での衝撃冷めやらぬまま向かったのは、南部タイの伝統芸能のひとつ、影絵芝居「ナンタルン」(หนังตะลุง)の博物館でした。

昔ながらの住宅が並ぶ路地に現れた奇妙なオブジェ。

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ここは、影絵人形作家スチャート・サップシン氏(1938-2015)の自宅兼工房に建てられた私設博物館です。


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スチャート氏は子供の頃から伝統芸能の影絵芝居「ナンタルン」の人形作りを学び、廃れかかっていた影絵芝居の復興に尽力しました。

その功績を称え、ラーマ9世プミポン前国王をはじめとする要人や各機関から国の文化功労者として数々の表彰を受けており、前国王陛下からはナンタルンの継承と普及を依頼されました。


まずは、奥の2階建て木造家屋の博物館へと向かいました。
途中、故スチャート氏の奥様が軒下でお食事をされていたので、軽くご挨拶。

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1階にはスチャート氏やご家族、プミポン前国王、プラテープ(シリントーン王女)ご訪問時の写真などがたくさん壁にかけられていました。

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2階が主な展示室となっています。
古い影絵人形や、第二次大戦時の影絵、周辺国の影絵なども展示されていました。

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奥の博物館の見学を終えたら、入口側にある展示室を見学しました。
こちらの2階には、ちょっとした影絵上映用のスクリーンがあったり、実際に使用される影絵人形が展示されたりしています。

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これは、前国王陛下の前でナンタルンを上映した時の写真ですね。

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スクリーンにも前国王陛下ご夫妻の影絵が。

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1階では影絵人形の作り方を実演で説明していただきました。
下絵を描くところから、デザインに沿って皮を打ち抜いたり、切り取ったりする作業、そして着色までの工程をわかりやすく教えてもらいました。

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熟練の技と根気が必要な作業だなと感心。


ただ、食用色素で着色しラッカースプレーで仕上げるみたいなことをおっしゃっていたのには、『そこは現代の技術を利用するんだ』と思ったり。
日本だと、伝統芸能とか伝統工芸というと、古来継承されてきた自然由来の染料を使って昔ながらの方法で作るのが基本みたいなところがあるじゃないですか。

いや、タイのこのスタイルを批判したり見下しているわけではないんですよ。
きっと日本の伝統工芸だって、本当はその時代時代で進化していったはずですから。
そもそも、どこに重点を置くかの問題でしょうし。

(あと、もしかしたら私が聞き逃していただけで、お土産などの商業製品にはラッカースプレー、伝統工芸作品としては別の染料や仕上げ方法を使うという可能性だってなくはないです)

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そんなことより、最初から最後までつかず離れずの距離感で接してくださった女性の控えめであたたかな案内がとても素敵で印象に残りました。
(この女性がスチャート氏のお弟子さんなのかご家族のお一人なのかは、結局聞きそびれました)




1階ではナンタルンやちょっとしたお土産も購入可能です。

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<施設情報>
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スチャート サップシン影絵博物館
พิพิธภัณฑ์พื้นบ้านหนังตะลุง สุชาติ ทรัพย์สิน
Shadow Puppet Museum (Ban Nang Talung Suchart)
所在地:89-97 ถนนศรีธรรมโศก ในเมือง เมืองนครศรีธรรมราช นครศรีธรรมราช 80000
    89-97 Si Thammasok Rd, Tambon Nai Mueang, Mueang Nakhon Si Thammarat District, Nakhon Si Thammarat 80000
TEL:075-346-394
時間:07:00-17:00
入館料:無料
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最後に訪問ノートへの記帳とお礼を述べて博物館を後にし、次の目的地であるキリウォンに向けてバイクを走らせました。


続きは次回に。

 

ではまた。