タイの南イサーンと呼ばれる地域は、カンボジアと国境を接している県も多く、かつてはクメール帝国の支配下にあったこともあり、各地に大小さまざまなクメール遺跡が現存しています。
その中で、今回はスリン県とシーサケート県にある3つのクメール遺跡を紹介したいと思います。
外国人にはあまり知られていないマイナーな遺跡たちですが、何かの参考になれば幸いです。
踊るシヴァ神とアンコールの天女
その日、スリン市内のホテルをチェックアウトして最初に向かったのは、プラサート・シーコーラプームというクメール遺跡でした。
226号線を東へ40キロほど進んだところにあります。
遺跡前の駐車場に車を停めて、入口で入場料を払います。
タイ語では10バーツ、英語では50バーツとなっています。(外国人は一律50バーツなのか、タイ在住とかタイ語がわかれば10バーツなのかは不明)
遺跡は公園のように美しく整備されていました。
真っすぐ150メートルほど参道が続き、正面には主祠堂を中心とした5基のレンガ造りのお堂(塔)が、ラテライトの基盤の上に建っています。
入口で買ったお供えセット(花と線香とロウソク)を持って主祠堂へと向かいます。
主祠堂入口上に位置するまぐさ石の彫刻には、中央に10の腕を持つ踊るシヴァ神の姿(ナタラジャ)が描かれています。
(タイ語では『นาฏราชสิบกร』ナータラート・シップコーン)
その下には、向かって右からガネーシャ神、ブラフマー神、4本腕のナライ神(ヴィシュヌ神)、パールヴァティー神(女神ウマー)が描かれています。
このように、シヴァ神信仰(ジヴァ神メイン)のヒンドゥー教美術であることから、プラサート・シーコーラプームは、12世紀のクメール遺跡だと考えられています。
そして、両脇の柱には蓮の花を持つアプサラ(天女)の彫刻。
このアプサラは、タイにあるクメール遺跡の中で唯一、かのアンコール・ワットと同じ様式のアプサラだとのことです。
そういえば、アンコール・ワットで見た天女たちの顔つきや身体つきに似ています。
神殿の周りには水をたたえた堀が築かれており、蓮の花が咲いていました。
メインの建物群以外には特に見所もありませんが、芝生や菩提樹の木陰が気持ちよく、まったりと散策できました。
<施設情報>
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プラサート・シーコーラプーム遺跡
ปราสาทศีขรภูมิ
Prasat Sikhoraphum
所在地:ตำบล ระแงง อำเภอ ศีขรภูมิ สุรินทร์ 32110
Ranang Subdistrict, Sikhoraphum District, Surin 32110
時間:07:30-18:00
駐車場:あり(無料)
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賑わう現役寺院とひっそりたたずむ遺跡
プラサート・シーコーラプーム遺跡を後にして、226号線をさらに東へ進むと、シーサケート県へと入りました。
次なる目的地「プラサート・サッカムペーンヤイ遺跡」へと向かいます。
約50分程で到着。
クメール遺跡を見学しに向かったつもりが、マップで案内されたのは、とある立派なお寺の前。
どうやら、プラサート・サッカムペーンヤイ遺跡は、ワット・サッカムペーンヤイという寺院の敷地内にあるようです。
なんだか不思議な寺門をくぐり抜けて境内に入って行きます。
コロナ禍にも関わらず、そこそこの参拝者で賑わっており、建設中のお堂や仏像などもちらほらと。
(写真はできるだけ人が写らないタイミングで撮っています)
真新しい巨大なドラがあったり、桜か桃の花のような造花が飾られていたり、千本鳥居もどきのものまでも…。
なんだか、遺跡というイメージとかけ離れていて、少し戸惑います。
こういうお寺って、有名な高僧がいらっしゃるとか、宝くじが当たるとかなんだろうなと直感しました。
(実際、生き仏になった高僧の棺を安置した礼拝堂がありました)
しかし、そんな華やかな境内(言葉が正しいかは分かりませんが)を抜けると、突如クメール遺跡が現れたので驚きました。
主祠堂を含む3つの御堂(神殿)が同じ地盤の上に建っており、砂岩及びレンガで造られています。
東向きに建てられた主祠堂のまぐさ石には、象に乗ったインドラ神(帝釈天)が彫られており、北東に建つ御堂のまぐさ石には、横たわるナライ神(ヴィシュヌ神)が見られます。
こちらの遺跡は、先ほどのプラサート・シーコーラプーム遺跡のように遺跡公園的に整備されているというよりは、現役の仏教寺院の一角に取り残された発掘現場のように佇んでいました。
そして、お寺側のこの新しいお堂(礼拝堂)の中には、この地から発掘された「ナーガに護られた仏陀像」が安置されていました。
1,000年以上前の仏像であると書かれています。
また、境内には金銀の洞窟だとか寺の博物館的なものもありました。
とにかくここは、地元では有名な、参拝者と参拝者からの寄付が多いお寺なんだろうなという印象でした。
<施設情報>
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プラサート・サッカムペーンヤイ遺跡
ปราสาทสระกำแพงใหญ่
Prasat Sa Kamphaeng Yai
所在地:ตำบล สระกำแพงใหญ่ อำเภออุทุมพรพิสัย ศรีสะเกษ 33120
Sa Kamphaeng Yai, Uthumphon Phisai District, Si Sa Ket 33120
(ワット・サッカムペーンヤイ寺院の一角)
入場料:無料
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クメールの薬師三尊!?
続いてやって来たのは、プラサート・サッカムペーンヤイ遺跡から車で20分ほどの場所にあるプラサート・サッカムペーンノーイ遺跡です。
こちらの遺跡は、ワット・テープ・プラサート・サッカムペーンノーイという寺院の敷地内にありました。
名前は先ほどのプラサート・サッカムペーンヤイと似ていますが、ヤイ『大きい』に対してこちらはノーイ『小さい』というだけあって、簡素でこじんまりした感じの遺跡寺院でした。
寺院内にあるタイ文化省芸術局の説明書きによると、この遺跡は、12世紀にジャヤーヴァルマン7世の命で各地に作られた、診療所のような役割を兼ねた宗教施設のひとつで、かつては薬師如来と日光菩薩・月光菩薩を祀っていた寺院であったと推測されているそうです。
個人的に、タイで薬師如来(พระพุทธเจ้าไภษัชยคุรุ)やその脇侍である日光菩薩(พระสุริยประภาโพธิสัตว์)及び月光菩薩(พระจันทรประภาโพธิสัตว์)の名前が出てきたのが興味深かったです。
これって、大乗仏教の薬師三尊ですよね。
ジャヤーヴァルマン7世といえば、あのアンコール・トムのバイヨン寺院を建設した人物です。
そしてそのバイヨン寺院には、かの有名なクメールの微笑みを浮かべた四面仏があり、その神秘的な尊顔は観音菩薩であるとも言われています。
そう、その時代にクメール王朝で信仰されていた仏教は、現在タイで信仰されている上座部仏教ではなく、日本でもお馴染みの大乗仏教だったんですよね。
もしクメールの薬師如来がここに現存するなら、ぜひこの目で拝見してみたかったです。
しかし、現在は、主祠堂や書庫、城門(三門)、外壁の一部、そして聖なる池が静かに残っているだけでした。
<施設情報>
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プラサート・サッカムペーンノーイ遺跡
ปราสาทสระกำแพงน้อย(วัดเทพปราสาท สระกำแพงน้อย)
Prasat Sa Kamphaeng Noi
所在地:ตำบล ขะยูง อำเภออุทุมพรพิสัย ศรีสะเกษ 33120
Khayung, Uthumphon Phisai District, Si Sa Ket 33120
(ワット・テーププラサートサッカンペーンノーイ寺院の一角)
駐車場:あり
入場料:無料
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以上、南イサーン地方のスリン県とシーサケート県にある、マイナーだけど興味深いクメール遺跡を訪問した話でした。
ではまた。