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バンコク生活の中で気づいたことや感じたことを書き連ねます。タイの生活情報やタイ語のあれこれ、タイ国内旅行、近隣諸国訪問なども織り交ぜながら。

チェンライの窯元「ドイディンデーン陶器工房(Doy Din Dang Pottery)」を訪ねて【チェンライ旅行 9】

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日本は大型台風19号の接近により各地に影響が出始めているようですが、どうか最小限の被害にとどまりますよう、祈っております。

さて。
先月のチェンライ旅行の記事が続いておりますが、一応、今回がチェンライ旅行シリーズ最終回となります。

チェンライ郊外の山のふもとにある陶器工房「ドイディンデーン(ดอยดินแดง)」の紹介です。
実は、今回のチェンライ旅行の最大の目的が、このドイディンデーン工房だったんです

以前から、日本の唐津焼の名匠、中里太郎衛門氏の元で修行したタイ人陶芸家が営む窯元がチェンライにあるということは知っていたのですが、ここ数年、私がバンコクでお気に入りにしている陶器カフェ「Aoon Pottery」のオーナー兼陶工が、実はそのチェンライの工房で修行していたというつながりから、これはいつか訪問しなければと、かねがね思っていたわけです。

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実際に訪れたドイディンデーン工房は、想像以上に素敵なところでしたし、先生の奥様からもいいお話を聞けたので、よかったらぜひ最後までご一読いただければ幸いです。

※ドイディンデーンの英語表記は、工房の正式表記に従って「Doy Din Dang」としています。ただ、検索では「Doi Din Dang」や「Doi Din Daeng」でヒットする場合もあります。

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 気概のある人は違うということ

 「バンコクの中華街近くのカフェ・・・?」

私のいきなりの質問に、少し考えあぐねてらっしゃった奥様。

「グアンさん(ง้วน:nguan)という青年なんですけど・・・」

というと、

「ああ、グアンさんね!覚えてますよ。お元気ですか?」

奥様の表情がパッと変わりました。

「あの方はね、他の生徒さんたちと違って本当に熱心だったの」


Aoon Potteryのグアンさんにまつわるちょっといい話

窯元の陶器ショップで、ソムラック・パンティブン先生(Somluk Pantiboon:อ.สมลักษณ์ ปันติบุญ)の奥様とお話する機会を得た私は、早速、Aoon Potteryの話題から入りました。

なんでも、ここに陶芸を学びにくる学生や陶芸が趣味の方もけっこうおられるようですが、たいていは途中で投げ出して帰ってしまわれることが多いそうです。
みなさん、根気というか、気概が足りないのだそうです。

なんとなく「かっこよさそうだから」「面白そうだから」と思ってやってこられる方がほとんどなんですが、陶芸ってそれほど簡単なもんじゃないし、基本を身につけてある程度自分でやっていけるようになるまでには、相当の忍耐や努力が必要なんです。

(かくいう私も、かつてそういう動機で陶芸を習ったので、耳が痛いのと同時に、よーくわかるんです)

「でも、あの方は、違ったんですよ。昼も夜もずっと工房にこもって手を動かしながら勉強していたんですよ」

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ここで、奥様から興味深いお話を伺いました
実は、グアンさんはこのドイディンデーン工房で一度「門前払い」を受けているんです
というのは、最初にグアンさんがここで修行をしたいと相談しに来た時、ソムラック先生は彼の当時の状況を見てこうおっしゃったそうです。

「あなたは今バンコクの一流企業でエンジニアとして働いている。陶芸で暮らしていくというのは簡単なことではないし、なんの保証もない。だから、一度よく考えて、それでもやりたいといのなら1年後に来なさい」と。

先生なりのお気遣いだったんですね。

はたして、1年後、グアンさんは会社を辞めてこの工房の門を再度叩いたというのです

気概というものが違うのでしょうね。
と、私も奥様と頷きあっていました。

 

英王室への献上品を作成したお弟子さんも

グアンさん以外にも数名、そういう気概のある生徒さんがいらっしゃったそうです。

その中の1人であるシンガポールから勉強に来た方は、日本で陶芸にはまり、陶芸教室で基礎を勉強した後、こちらのドイディンデーン工房にやってきたそうです。
そして、やはり熱心に勉強され、作陶に勤しまれたそうです。

その方がシンガポールに帰られた後、自分の工房を開いてさらに研鑽を重ねた結果、女王エリザベス2世の戴冠記念日(だか、ご生誕記念だか失念しました。汗)へのシンガポール政府からのお祝いの記念品として、その彼のお皿が選ばれたそうです。
英王室に自身の作品が贈られたということ

これは何とも誇らしいことですよね。

 

工房とソムラック氏について

当日、先生はご自宅にいらっしゃるとのことでお会いできませんでしたが、奥様に先生と工房についてのお話を伺いました。
(以下、奥様のお話を元に、私が加筆し、まとめた内容となります)

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ドイディンデーン工房について

当工房を開いてから、今年で28年とのことです。
何もない土地を一から切り開き、先生の設計によるギャラリーや工房、ショップなどの建物を建て、木々を植え、地域の人たちと共に工房を運営してきたそうです。

ここで作業をしている方々やショップで働いている方は、外部から勉強に来られている生徒さんをのぞいて、みんな地域の村の方々だそうです。
農作業をしながら、時間が空いた時にこの工房で作業を行い、生計をたてられています。
こちらの工房では、地域住民との関わりや地域社会への貢献ということを重視されています。

また、環境への配慮もあり、現在はガス窯を使っておられるそうです。

かつて協力して植樹した木々は年を重ねて立派な木立となり、優しい木漏れ日をつくっています。
敷地内には、無造作にセンス良く配置された陶器作品の数々。
素朴な作業工房。
どこもすごく穏やかであたたかな雰囲気が漂っていました。

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ソムラック氏について

現在、ソムラック先生は、61歳。
お二人は、国際的なボランティア活動で知り合ったそうです。
先生は、当初、奥様の出身地でもある岩手県に1年くらい滞在し、その後、唐津で修行されます。

 

名門「中里太郎右衛門窯」で修行

ソムラック氏は、十三代中里太郎右衛門氏の元で修行し、作陶技術を習得し磨きをかけました。

もともと中里氏は唐津焼にも受け継がれている叩き技法のルーツを探して朝鮮半島から東南アジア各地を回ってご研究なさっていたらしく、ここタイの地でも、陶器に関する研究や視察のかたわら、ボランティアで作陶を教えたりされていたそうです。

そのような経緯もあり、タイから陶芸を学びたいとやって来た青年(ソムラック氏)を弟子として受け入れたそうです。
通常ならそう簡単に弟子入りなど認められない世界です。

いわば特別枠で入門を許されたソムラック氏ですが、その後、黙々と修行に励み、メキメキと頭角を現します。

当時、まだインターネットもない時代に、日本事情もほとんど知らず、気候はもとより、生活習慣や文化も違う中、故郷タイとの通信手段も今とは比べものにならないくらい限定的だった環境の中で、タイの一青年が、日本の名だたる伝統工芸の一門の門を叩き、そこで厳しい修行生活することの困難さを思うと、相当の覚悟や努力があったことは想像に難くありません。

一般的に「サバーイサバーイ(楽に、気楽に)」を好むと言われるタイの国民性を考えると、もちろんソムラック氏の性格もあったとは思いますが、陶芸に対する深い情熱や気概を感じます。

日展で入選

そして、修行開始後1年にして、なんと、日展入選という快挙を成し遂げます。

中里太郎右衛門の窯焼きの中に、ソムラック氏の作品を1つ入れて一緒に焼成してくれたそうです。
その仕上がりがよかったので、十三代が応募してくれたところ、入選となったのだとか。

「中里太郎右衛門一門というネームバリューも手伝ってのことだとは思いますけど」

と、奥様はご謙遜なさいましたが、それでも確固とした技術と実力があってこそですからね。
昼夜問わず作陶に没頭し、師匠や先輩達の技術を目で学び実践するといった、並々ならぬ努力の賜物だと思います。あと、もちろん、ご本人のセンスも。

そんなソムラック氏が故郷タイで構えたのが、この「ドイディンデーン陶器(ดอยดินแดง:Doy Din Dang pottery)」なんです。

ここには、氏の陶器に込めるこだわりと日本の陶芸精神が受け継がれているように思われます。


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ソムラック先生の作品を展示したギャラリー




「最近は、年なので、もう大きな壺とか甕(かめ)なんかを作るのは厳しくなってきてますけど、お茶碗はこれからも作り続けていくと思います」
と奥さんはおっしゃってました。

 

ドイディンデーン工房情報(行き方)

<アクセス>
チェンライ中心部から国道1号線を10キロちょっと北上し、首長族の村への看板があるところで右折して、田舎道を1.5キロほど入っていたところにあります。
(車で約20~30分程度)

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木々の生い茂った入り口にある「Doy Din Dang Pottery」という看板が目印です。

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敷地内には、陶工房や、展示ギャラリー、陶器販売ショップ、ディスカウントショップ、そして工房で作られた陶器でいただくカフェも併設しているので、緑と器を満喫しながらドリンク休憩もできます。

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<工房情報>

ドイディンデーン陶器工房
Doy Din Dang Pottery
เครื่องปั้นดินเผาดอยดินแดง (ดอยดินแดง)

住所:49 Moo 6, Nang Lae, Mueang Chiang Rai District, Chiang Rai 57100
49 หมู่ 6 ตำบลนางแล อ.เมือง จ.เชียงราย ตำบลนางแล อำเภอเมืองเชียงราย จังหวัดเชียงราย 57100
TEL:053-705-291、061-093-3131
E-mail:doydindang1@gmail.com
営業時間:08:00 - 17:00
定休日:日曜日

Facebook:http://facebook.com/doydindangpotter

ウェブサイト:https://www.doydindang.com/



 

おわりに

今回、ドイディンデーン工房を訪ねることができて、本当に良かったです。
緑いっぱいの平和な工房も散策できたし、いくつか素敵な陶器も購入できたし。

なにより、奥様からたくさん興味深いお話を聞かせていただきました。
凛とした雰囲気を醸しつつ、笑顔がとても素敵な方でした。
(ここには載せませんが、最後のツーショット記念撮影にも快く応じてくださり、ありがとうございました)

次回チェンライへ行く時には、またこちらの工房にも寄らせていただこうと思います。
こんどはもう少しゆっくり滞在してみたいです。

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「グワンさんのこと、応援してやってね」

と奥様。

実は、もう既に(勝手に)応援していたんですが、なんていうか、もうこうなったら精一杯応援しちゃいます。
なんだか、彼の背景を知ったら、その気概と情熱をずっと持ち続けていてほしいと、なおさら思ったんです。

確かに、タイでは陶芸ってまだ知名度が低くてなかなか評価されにくいし(特に『わびさび系』の陶器)、カフェ経営も簡単じゃないとは思いますが、なんとか頑張ってほしいなと。

さて。
近々、奥様からの誉め言葉を持ってAoon Potteryへ行きますか。
グアンさんは照れるでしょうけどね。

最後にもう一度、Aoon Potteryの記事を貼っておきます。

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ここまで長々と読んでいただき、ありがとうございました。

 


ではまた。